婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
陽菜も頻繁に鳴る電話が気になるようで、着信のたびに肩を竦めて「どうぞ」と目配せをしてから小さくため息をついている。
決して疚しいことはなく、陽菜に不快な思いをさせたくなくて相手が池田であることを伝えていたが、それが裏目に出ていたとは思ってもみなかった。
陽菜から一緒に外で夕食を取ろうと誘われていたワークショップ前日。
その日は定時で帰れるように手配していたはずが、翌日の人員確保のトラブルと教材の一部に不備が見つかり、チーム全員で対応に追われることになった。
久しぶりに陽菜とゆっくり食事を楽しむはずが、会議室でひとりコンビニ弁当を食べる羽目になり、自分でも驚くほど落胆する。
なんとか解決の目処が立ったが、途中でメッセージひとつで予定をキャンセルしてしまった陽菜から返信がなかったことを思い出した。
俺はスマホを取り出し、会社の近くで評判のスイーツの店を検索すると、休憩中に一番口コミのよかった店へ駆け込み、陽菜への土産を購入した。
今日のお詫びの品でもあるが、最近陽菜がどことなく元気がない気がするので、甘いものを食べてリフレッシュしてほしい。
閉店ギリギリでは合ったが買えたことにホッとして、陽菜の喜ぶ顔を思い浮かべながら残りの仕事を片付けた。
そんな俺の思いは、陽菜の「いらない」のひと言で打ち捨てられてしまった。
「……これ、池田さんと選んだの?」
何故か関係のない池田の名前が出てくる。