婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
遠目で話している内容は聞こえなかったが、心なしか元気がなかった男の子が、陽菜と図鑑を覗き込みながら笑顔になっていく。
時折持っていたプリントに何かを書き込み、楽しそうに笑い合っているのを見ていると、彼女は普段ああして保育園で子供たちと接しているのだろうと微笑ましく思うのと同時に、真摯に子供に向き合って働く陽菜を誇らしく感じた。
彼女は麻生家に嫁いだからには、家庭に入り夫を支えるべきだと主張していた義両親の言いつけに背いたことを気にしていたが、俺も両親もそんなことは望んでいない。
俺が陽菜に望むことはただひとつ。
ずっとそばにいてほしい。それだけだ。
握りしめていた陽菜の指先がぴくりと動いた。
「陽菜?」
顔を近づけて声を掛けると、閉じられていた瞼が震え、ゆっくりとその瞳をひらいた。
陽菜は何度かまばたきをして、覗き込んだ俺を認識すると、掠れた声で「ここは…?」と問いかける。
「病院。倒れたの覚えてる?」
ワークショップは大盛況で初日を終え、俺はチームの広報スタッフと共に保護者への説明に追われていた。