婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
見に来てくれただけでなく、流れを変えるほど盛り上がるきっかけを作ってくれた陽菜に礼が言いたくて視線を彷徨わせると、なぜか池田が彼女に話しかけている。
その表情はやけに好戦的で、嫌な予感に足早にふたりのもとへ近寄っていた時、陽菜の身体がぐにゃりと力が抜けるように崩れ落ちた。
咄嗟に駆け寄り抱きとめたものの、目の前で倒れた彼女の姿に心臓が止まるほど驚き、今もまだ鼓動のリズムは早いままだ。
しかし、驚きはそれだけではなかった。
「ごめん、迷惑かけて」
「こっちこそごめん。昨日の大事な話って、この子のことだったんだよな……?」
言いながら陽菜のお腹のあたりに視線を向けた。
倒れた彼女が搬送された病院で、医師から明かされた事実。
陽菜は妊娠していた。
昨日食事に誘ってくれたのは、きっとこの事実を話してくれようとしていたに違いない。
近頃元気がないように感じていたのも、つわりの症状が出ていたのだろう。
なのに俺は仕事を理由に約束を守れなかっただけでなく、初めての妊娠で不安になっている陽菜に寄り添ってやることも出来なかった。
昨日の陽菜は明らかにいつもと様子が違っていたのだから、何をしても聞いてやればよかったと今更ながらに思う。