婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
陽菜がゆっくりと起き上がったので、点滴の管をたゆませ、座りやすいように背中に枕やクッションを置いてやると、「かいがいしいね」と小さく笑った。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう。もう平気」
丸椅子からベッドの縁に腰を下ろし陽菜の顔を覗き込むと、確かに顔色は悪くなかった。
「昨日、待ち合わせ前に病院に行ってきたの」
きっと昨日言いたかったであろうセリフを口にした陽菜が、俺の手にそっと触れる。
そのまま自分の左手の小指を俺の小指に絡めると、頬を染めながら微笑んだ。
「パパとママがケンカしてたら、きっと赤ちゃんも困っちゃうと思うから」
恥ずかしそうに笑顔を向ける陽菜があまりにも愛おしくて、左手は陽菜と指を絡めたまま、自由になる右手で思い切り抱きしめた。
「……だから、これ約束の時のやつだって」
「ふふっ、いいの。私と怜士の仲直りのおまじないなの」
幼い頃に何度も繰り返したやり取りに、胸がぎゅっと締め付けられる。
込み上げてきそうな涙を誤魔化すため、陽菜の肩口に顔を埋めて大きく息を吐き出した。
それから左手を解いて陽菜の髪を梳くように撫でると、彼女は甘えるようにこちらに体重を預け、点滴針の刺さっていない左手を背中に回して抱きしめ返してくれた。