婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

「池田さんとは同期だから親しいっていうのは理解してるの。私だって職場の先生たちと仲良くさせてもらってるし。だけど下の名前で呼ぶほど仲がいいのかな、とか思いだしたら、どんどんよくない方に考えちゃって」
「彼女は同期ではあるけど、そこまで親しくはない。前にも言ったと思うけど、入社してからは女性と個人的に交流をもったことは一度もない。呼び方も、母親の旧姓を使ってたのを麻生姓にした時に、慣れないから下の名前で呼びたいって言われたけど断った」
「そうだったんだ」
「池田になにか言われた?」

陽菜と池田が接触したのは、今日を除けば、以前弁当を届けに来てくれた時にすれ違ったくらいしか思い当たらない。

池田が俺を下の名前で呼んでいると思ったのは、彼女が陽菜にありもしないことを吹き込んだからなのではないか。

もしあの時になにか俺との関係を匂わせるようなことを言われていたのだとしたら、陽菜はどれだけ長い間嫌な思いをしていたのだろう。

「うーん、まぁちょっとだけ」

その時のことを思い出したのか、苦笑しながら肩を竦めた。

「ちょっとじゃないだろ。さっき診てくれた医者が言ってた。妊娠初期にストレスは大敵だって」

今回倒れたのは貧血とつわりによる栄養不足が主な原因だろうと言われたが、つわりに加えてストレスで食欲が落ちていたとしたら、今回のことは俺の責任だ。

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