婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

「私、両親がすごく厳しい人たちで、物心がつく前から“人生は勝負に勝ってこそ”みたいな教育を受けてきたの。勉強は楽しくなかったけど、期待に応えるために努力して、東大に入って、大企業に就職して……いつの間にか猫を被ったプライドの塊みたいな女になってた」

小さな顎を反らして病室の電灯に目を細めながら、池田さんが続ける。

「仕事でも恋愛でも、あなたに出会ったお陰で無駄に高くなりすぎてた鼻を折ってもらえた気分」

清々しそうに話す池田さんに感化されたのか、私も自然と言葉がもれた。

「ワークショップの授業形式じゃない方のテーブル、今日は置いてあるものが変わってたって聞きました。おままごとセットとかおもちゃのお金もあって、みんな遊びながら学べて、保護者からも好評だったって。池田さんが準備されたんですよね?」

これも怜士から電話で聞いたことだった。

「昨日、帰ってから改めて調べたの。幼児教育は北欧が進んでいて、スウェーデンやフィンランドの文献を片っ端から読んだわ。麻生くんやあなたが目指したい教育の素晴らしさに気付けた。自分が苦痛だと思って歩んできた道を、子供に歩かせちゃダメよね」

事もなげに言ってのけている池田さんだけど、昨日の半日で海外の文献をいくつも読み、必要だと思われるおもちゃを準備するのは、並大抵の人には出来ないことだ。

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