婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
実際に身籠っている私でさえ、まだあまり実感がないのだ。
男性にはもっと不思議な感覚なのかもしれない。
私はバッグに入れていたポーチから、白黒のエコー写真を取り出した。
「これ、昨日もらったの」
「……ごめん。どこが、なに?」
「ふふっ、だよね。私も言われないと、なにがなんだかわからなかった」
感動よりも疑問が頭を占めた怜士の表情が可笑しくて、私は笑いながら先生に教えてもらったとおりに説明した。
「そっか、当たり前だけど、もう心臓がちゃんと動いてるんだな」
「うん、ぴこぴこして可愛かった」
「俺と陽菜の子だ。可愛くて当然だな」
私同様、早すぎる親バカを炸裂させ、ひとり納得するように頷きながら食い入るようにエコー写真を見る怜士を、じっと見つめる。
何も言葉にしなくても、授かった命に改めて思いを馳せているのがわかった。
視線に気付いた彼が私の肩を抱き寄せ、そっと頬に手を添える。
甘えるようにその手に頬を擦り寄せると、「猫みたいだ」と微笑みを浮かべた怜士が、ふわりと唇を合わせてきた。