婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「うん。特に午前中はぐっすり。でももうすぐ起こさなきゃ。三時間経ちそう」
生まれてしばらくは、三時間おきの授乳が必須だ。
これがなかなか大変で、夜中に三時間おきに起きておっぱいを飲ませて、げっぷをさせて、また寝かしつけてとしていると、自分の睡眠時間はほとんどない。
この病院では昼間は母子同室だけど、母親の体力回復のため、希望すると夜中は新生児室で赤ちゃんを預かってくれる。
そのお陰で傷の痛みはともかく、体力はかなり回復した。
「日に日に美人になっていってる気がする。目元はやっぱり陽菜に似てるのかな」
「ふふっ、親バカ」
まだお猿さんのようなさくらに向かって、真剣な表情でそんなことを言う怜士が可笑しくて、身体を斜めに倒したまま笑っていると、彼は眉尻を下げて私を見る。
「まだ普通に座れないくらい痛むか?」
「うん。しょうがないよ、こればっかりは。みんな一緒でしょ」
「でも、陽菜ばっかり痛い思いをして……。男って本当に役立たずだな」
立ち会い出産を希望した怜士は、私が破水し病院へ行くと連絡を入れると、すぐに仕事を切り上げて駆けつけてくれた。
丸一日近く痛みに苦しんでいるのを側で見続けたせいか、出産後は怜士までぐったりしていて、余程『痛いー!』と叫んでいる私が記憶に刻まれてしまったらしい。
少しでも産後の傷を痛がる素振りを見せると、大型犬がしょげてしまったような表情をするのだ。