婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

仕方なくベッドに転がして、おむつを変えても目を覚ます気配のない娘に、私も怜士も笑ってしまう。

「大物になるな」
「寝る子は育つって言うしね。先に色々準備しちゃおうかな」

立ち上がって荷物をバッグに詰めようとすると、すかさず怜士が「俺がやる」と動いてくれる。

退院準備を終えてから、再度さくらを抱き上げて起こすと、今度はお腹が空いていたのか、あっさりと目を覚まし、「ふぇぇー」と可愛らしい泣き声を上げた。

授乳するのに前をはだけさせるのは、いかにさくらの食事のためとはいえ、怜士の前だと恥ずかしい。

「ちょっと、あっち向いてて」
「なんで」
「授乳したいから」
「見たい」
「やだ」

これはもうお決まりのやり取りで、出産直後から授乳時間に怜士がいる時は毎回こうして言い合っている。

昨日、仕事のお昼休憩を使って来てくれた怜士とのこのやり取りを聞いていた助産師さんには「初々しくていいわね」と笑われてしまった。

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