婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

裾の合わせから侵入してくる怜士の手がひんやりと冷たくて、それがさらに恐怖と悲しみを煽る。

脚の間に指を這わせられれば、嫌でもこの後の展開はひとつしか思い浮かばない。

「もう、やだ……やめてっ……」

純潔を後生大事に守っていたわけじゃない。

ただ恋愛する時間もなく必死だったし、それを押してまで夢中になれる男性に出会わなかっただけだ。

だけど、私にだって理想くらいある。

ハジメテは好きな人としたいし、相手も私を好きでいてくれる人がいい。

それなのに、どうして私は今、互いに好意を抱いていない相手に組み敷かれ、処女を散らされようとしているんだろう。

他に女性がいるのに、どうして……。

弱々しい涙声で訴える私に気付いた怜士は、身体を引き、眉間にしわを寄せた。

「え、お前……まさか、初めて……?」

ガタガタと震える私を見て怜士が放った一言で、堪忍袋の緒が切れた。


< 32 / 262 >

この作品をシェア

pagetop