婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~


――――バチーン!


豪華なスイートルームに似つかわしくない、頬を打つ大きな乾いた音が響く。

「あなたと一緒にしないで!」

思いっきり引っ叩いたせいで、右手がじんじんと痺れている。

よく叩いた方も痛いんだとは聞いてはいたけれど、痛いのは手の平よりも胸の奥深く。

だけどその痛みは見ないふりをして、乱れた着物の合わせを震える手でなんとか整えながら、私を組み敷く男から距離をとった。

怖くて、悔しくて、恥ずかしくて、悲しい。色んな感情が一気に押し寄せてきて、グッと目頭が熱くなる。

泣かない。
こんなことで、こんな男のせいで泣いてなんかやるもんか。

私は必死で唇を噛み締め、震える自分の身体をぎゅっと抱きしめる。涙なんて絶対見せたくなかった。

「……陽菜」
「来ないで!」

こちらに伸ばされた手を大声で拒む。もう触れられたくなかった。

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