婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
政略結婚を断れないとはいえ、当事者の私の許可もなく勝手に同居の話を進めるだなんてあり得ない。
理不尽に耐えきれず、颯真さんが出張中で留守なのをいいことに、千花の家に転がり込んでいる。
怜士の家はもちろん、娘を無断で売り払うような両親のいる実家にも居たくなかった。
しかし、それも今日まで。新婚家庭にいつまでも居座ってはいられない。
「でも、本当に大丈夫? うちはもう少しいてくれてもいいんだよ?」
「なに言ってるの。旦那さんが帰ってくるなら、私は邪魔でしょ」
「そんなことないよ。それか颯くんに頼んで、すぐに入れる一人暮らし用の部屋探してもらおうか?」
「天下の不動産王に個人宅の斡旋なんてお願いしたらバチが当たりそう」
「なに言ってるの。困ったらちゃんと頼ってね?」
「ありがと。持つべきものは不動産王の嫁ね」
茶化して会話を終わらせたけど、千花は心配そうに私を見つめていた。
まだ千花の家を出たあとの行動を決めかねているけど、当面はホテル暮らしになるだろうと覚悟はしている。
こんな時のために、必死に貯金をしておいてよかったと心底思う。
本来なら結婚すらしないでいられたら一番よかったのだけど。
そう考えると、先程よりいっそう深い溜め息が漏れた。