婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「矢上のやつがとっとと帰っちゃったからさ」
「逃げられましたね」
「そうなんだよ。先週、失恋の愚痴を延々と聞かせたせいかな」
「あはは、それですね。私も千花が帰っちゃったので暇でした」
「あぁ、あのイケメン旦那が出張から帰ってくるんだっけ」
私と千花、山崎先生と栄養士の矢上さんの四人で時々仕事終わりに飲むこともあり、山崎先生も千花が大学卒業後すぐに結婚した経緯は知っている。
「そうなんです。今色々あって千花の家に泊めてもらってたんですけど、旦那さんが帰ってくるので、今日から宿無しホテル生活です」
「え? え? なにそれ、どういうこと?」
「それも込みで、今日は話聞いてください。私も失恋の愚痴聞くんで」
怜士との政略結婚のことは千花にしか話していないけれど、今日は社名などの固有名詞を伏せて話を聞いてもらおう。
「よし、言ったな? 明日休みだし、とことん飲むか」
「ですね!」
今日は互いに愚痴の濃い夜になりそうだ。
ふたりで園の裏門を出ると、真ん前にドイツ製の白いスポーツタイプの高級車が止まっている。
保育園のあるこの地域は住宅街で、見慣れない車に嫌な予感がひしひしと背中を伝う。