婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

至近距離に、先日のホテルでの出来事が思い出され、身体が固くなる。

ようやく結婚を破談にして自由になれると思っていたのに、あっさりベッドに組み敷かれ、ファーストキスを奪われてしまった。

そうだ。私、怜士とキスしちゃったんだ……。

今更そんなことを思い出し、無意識に唇に触れようとした手を掴まれる。

唐突な仕草に驚いて怜士を見上げると、彼の鋭い視線は隣の山崎先生に向けられていた。

「おい。まさかこの一週間、この男の家にいたんじゃないだろうな」

私の職場の先輩であり、怜士にとっては初対面の相手に対して、あまりに礼を欠いた態度だ。

「ちょっと、失礼なこと言わないで!」

諫めるように掴まれていた腕を逆に引っ張り、山崎先生から距離を取ってから、私は小声で怜士に訊ねた。

「なにしに来たの?」
「陽菜が実家にも帰ってないって聞いたから、迎えに来た」
「迎えにって……」
「家に帰るぞ」
「待ってよ。私は一緒に住むことを了承した覚えは……」

会話がヒートアップしそうになっているところに、「あのー」と山崎先生の間延びした声が割って入った。

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