婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

決戦の日。
それは梅雨時期であるのに、憎らしくなるほど爽やかに晴れた日だった。

窓から差し込む眩しいほどの朝日に、憂鬱な気分の私の心の中とは真逆だと朝からため息をつきたくなったけど、きっと神様が私のこれからの門出を祝福してくれているのだと前向きに捉えることにした。

成人式以来の振り袖を着て、最近染め直したばかりのグレージュカラーの髪をアップスタイルにまとめた私は、オーダーメイドのスーツを身に纏った父と小綺麗なワンピース姿の母の隣で無言で料理を口に運んでいた。

今私達がいるのは、ホテル『アナスタシア』の地下一階に位置する日本料理の店『なでしこ』。

紫綬褒章を賜ったほどの料理人が長を務めるこの店は、季節の食材を使い、器にまで拘った、目にも舌にも美しく美味しい料理の数々を楽しめる。

以前二十歳の誕生日に連れてきてもらい、こういった一流の店での振る舞い方を教わって以来二度目の来店。

本来ならこの席には絶対に来たくなかったのだが、会場がこの店だと聞き、それならばとのこのこやって来てしまった。

やはり老舗の日本料理店、抜群に美味しくてほっぺが落ちそう。

特に初夏ならではの脂の乗った鱧を使った煮物椀が抜群。柚子の風味がなんとも爽やかだ。

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