婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「千花の旦那さんが今日出張から帰ってくるの。実家にも帰りたくないし、ホテル取ろうと思ってただけ」
「必要ない。陽菜の家は今日からここだ」
横柄にそう言い切ると、怜士は袖を少し摘んで腕時計に目を落とした。
「俺、抜けてきたけどまだ仕事だから。この部屋もキッチンも、家のものは好きに使っていい。陽菜が困らないように、一通りは揃えてあるから」
「え……」
確かに私の部屋と言われた洋室には、ベッドやドレッサー、ソファもあり、着替えなどの荷物は送られてきているのだから生活に困ることはなさそう。
だけど問題はそこではない。
「洗面所とバスルーム、俺は自分の部屋に近いあっちを使ってるけど、陽菜はこっち側の客用の方を使ってくれてもいい」
どんどん進む同居話に慌てて待ったをかける。
「ちょっと待って。私まだ、怜士の家に住むって了承したわけじゃ」
「“俺の家”じゃない」
「え?」
「“俺たちの家”だ」
「それ、どういう……」
「行ってくる。これ、この家の鍵。エレベーターに乗る時も必要だから」
話を遮り、ゴールドのカードキーを私の手に握らせると、口の端を上げて不敵に笑った。
「もう逃げるなよ」
そう言い残して、仕事へ向かうため部屋を出ていった。