婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
私の初恋は十歳の頃。
もっと小さい頃からずっと一緒にいたけれど、怜士への気持ちが“恋”だってちゃんと自覚したのは、小学校五年生の社会科の授業中。校外学習の日だった。
男女六人グループに分かれ、学校の外に出て実際に周辺を歩きながら地図を作ってみるという授業。
小学校の周りには大きな公園や商店街があり、少し行った先には川も流れている。
普段の授業中はこっそり手紙を書いたり漫画を読んだりしているクラスメイトが、いつになく楽しそうに地図を作成する授業の課題に取り組んでいた。
それを見た怜士が『なんで今日は張り切ってんだよ』と言うと、『だって今日の授業は楽しいもん』と答えが返ってきた。
確かに、ただ教室で椅子に座って話を聞くだけの授業よりも、散策しながらのグループ学習は違った楽しみがある。
勉強が苦手ではない怜士や私は普段の授業も特に苦ではなかったけど、他のクラスメイトにとっては違うらしい。
いつもの授業は、彼らにとっては“楽しくないもの”なのだ。
それを聞いた怜士は、私だけに聞こえるボリュームでこう呟いた。
『俺さ。いつか親父の跡継いだら、こいつらみたいなやつが、普段の授業でも自分から勉強したくなるような“楽しい教材”を作る会社にしたい』
将来ASOホールディングスグループを背負って立つのが決まっている怜士のその発言は、当時十一歳とは思えないほど大人びていて、当時の私には夢を語る彼がキラキラと輝いて見えた。