婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

さらにお造りで出された鮪や鮑の刺身、鮎の塩焼き、穴子とかんぴょうの混ぜご飯もおかわりと叫びたいほど美味しい。

食に特にこだわりがない私でも、ここの料理は高級で一流のものだとわかる。芸能人や政治家がこぞって通うというのも納得の素晴らしいお店だ。

だから、今日ここに来てしまったことに後悔はない。

私の意志は固いのだから、この場ではっきりと告げればいいだけのこと。

両親と縁を切られる覚悟の私は、きっともうこの店を利用することは二度とないだろうし、最後に食べられてよかった。

そう開き直り、私はとにかく両親たちの交わす会話をすべて聞き流し、ここまで料理に集中してきた。

そしていよいよ水物、デザートである枇杷のゼリーが出てきたところで、ようやく私は視線を上げた。

父の向かいには、通信教育事業、塾の経営、教科書や参考書を扱う出版社の経営、さらには学生の留学支援など、国内教育を主軸にした企業『ASOホールディングス』の頂点に立つ麻生公仁(あそう きみひと)。

大企業の社長の名に相応しく優しい風貌の中にも貫禄があり、ひとめで高級だとわかるスーツを着こなしている。

その隣には成人した息子がいるとは思えないほど若々しい美貌の麻生瞳。

< 6 / 262 >

この作品をシェア

pagetop