婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「これって?」
「部屋に鍵つけたのか?」
「業者も呼んでないし工事もしてない。子供用のドアロックだよ」
よく保育園でも、開けてほしくない場所の扉に限って子供が開けてしまうと、保護者の間で話題になる。
キッチンや危険なものが入れてある棚の引き出しには、シールで簡単に貼れるチャイルドロックが便利だとママさん達が話していたのを思い出し、昨日ここに連れてこられた後、近くの百円ショップで購入してきた。
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
もちろん子供用なので、怜士のような大人の男性が力任せに押せば、シールで固定してあるだけのドアロックなど簡単に剥がれてしまう。
それをわかっていて取り付けたのは、私の意思表示だ。
「結婚を避けられないのは理解したし、実家に帰るのも嫌。だからもうここに住むしかないって諦めた。だけど、私は夫婦の真似事をして仲良しごっこをするつもりはないの。それに……」
本当は話題に出すのも嫌だけど、私は先日のホテルでの一件を口にする。
「この前、自分がなにをしたか覚えてないの?」
「あれは……」
ファーストキスを奪われたのはもちろん、私に対して何の気持ちも持っていないはずなのに身体に触れてきた悲しみと悔しさが忘れられない。