婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
それなのに、怜士は昨日、何事もなかったかのような振る舞いで私に接してきた。
保育園まで強引に迎えに来たかと思えば、まだ仕事が残っていると、さっさと家を出ていった。
夕食もまだだったけれど、なんだかドッと疲れて料理する気にもなれず、マンションの近くのコンビニで適当にお弁当を買い、思いつきで百円ショップに足を延ばしてから帰ってきたのだ。
私にあてがわれた部屋の奥には、メインの浴室とは別に客用のバスルームがあり、私は食事を済ませてからそこを使ってお風呂に入り、ふかふかのベッドにごろんと横になった。
怜士の恋人の部屋だったかもしれない場所では眠れないなんて殊勝なことを考えたのは一瞬で、寝心地の良い寝具の誘惑に勝てず、すぐに夢の世界の住人になったので、彼が何時に帰ってきたのかはわからない。
もしかしたら彼にとっては、あのくらい取るに足らない出来事なんだろうか。
そう考えると、またむくむくと苛立ちが募ってくる。
「私は、話すことなんてない」
ピシャリと言い放つと、ドアの向こうで息を呑む気配がした。
土日はそうやって鍵をつけた部屋に引きこもって話し合いを突っ撥ね、怜士のいない隙きを見計らって買い物に出たりと、遭遇する機会を避け続けた。
彼も今は話をしても無駄だと諦めたのだろう。無理に部屋に押しかけてくることはなかった。