婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
そして月曜日。早番のシフトで保育園に出勤し、六月も後半なので七夕飾りの作成などで保育時間を過ごし、お迎えの保護者に園児を引き渡し終えると、途中入園の手続きで保護者の方が職員室の奥の部屋で満福園長と話をしているのが見えた。
「では、こちらが園生活で必要なもののリストになります。大変ですけれど、全部にひらがなでお名前を書いてあげてくださいね」
「わかりました」
「説明は以上になりますが、なにかご不明な点はありますか?」
園長先生と話をしていたママさんは、座っていてもスタイルが良いのがわかるほどシュッと細身で、緩くカールした明るい色のロングヘアを後ろでひとつで束ねているだけのヘアスタイルなのにオシャレに見える。
背筋をピンと伸ばして話を聞く後ろ姿は美しく、凛とした雰囲気が漂っていた。
圧倒的な存在感に目を奪われていると、私の視線に気付いたのか、ママさんが顔を上げてこちらを振り向いた。
慌てたものの顔を逸らすもの憚られ、取り繕ったように笑顔を浮かべて会釈する。
すると、彼女は小首を傾げながらこちらをじっと見つめてきた。
怒らせてしまったかなと焦っていると、「もしかして、霧崎陽菜さん?」と名前を呼ばれて驚いた。
「えっ! あ、はい。そうですが……」
「やっぱり! 私のこと覚えてないかしら? 同じ高校だったの。私の方がひとつ上の学年で、保健委員を一緒にしたこともあったのだけど」