婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
あれ? でも待って。
先輩が結婚して子供を授かったのは頷ける。これだけ美人な彼女のこと、きっと錚々たる面々からも引く手数多だったのだろうと想像に難くない。
だけど、どうして子供を保育園に?
彩佳先輩ほどの家柄の人なら、ベビーシッターを雇って家で見てもらうか、そもそも働かずに専業主婦になる人の方が多いと思うのに。
実際私も、父から怜士と結婚したら仕事を辞めるよう、口酸っぱく言われてきた。
そんな私の疑問が顔に出てしまっていたのだろう。
先輩は帰り際に私に仕事の終わり時間を訊ねてきた。
「よかったら少し話さない?」
「あ、でも、息子さんは……?」
「今日は主人が休日出勤の振り替えで休みだから家で見てもらっているの。どうかしら?」
彼女からの誘いに応じ、私は仕事を終えて急いで支度を整えると、保育園の最寄り駅の近くにある『calando(カランド)』というカフェへ向かった。
ベルギーチョコを使ったアイスココアを注文し店内に入ると、窓際の席でコーヒーを飲む先輩の姿が見える。
映画にでも出てきそうなほど絵になる光景で、なぜかぎゅっと胸が締め付けられる感覚に首を捻った。