婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
彩佳先輩は私に気が付くと、穏やかに微笑んでこちらに手を振ってくれる。
私も小さく会釈して、彼女が座る席の向かいに腰をおろした。
「すみません、お待たせしてしまって」
「ううん。こちらこそ、急に誘ってしまってごめんなさいね」
「いえ、私もお話したいと思ったので」
敏い先輩は、私がなにを聞きたいのかをすぐに察してくれたようで、コーヒーをひと口飲んでから私の疑問に答えてくれたけど、その内容は想像を遥かに超えていた。
「私ね、実は駆け落ちしたの」
「駆け落ち!?」
あまりにも驚きすぎて、公共の場であるにも関わらず、身を乗り出して大きな声を出してしまった。
慌てて口を抑えて周りをキョロキョロ見回すと、賑やかな店内なのでそこまで注目を集めていなかったことにホッとする。
「すみません……」
「ふふ、驚くわよね。駆け落ちって言うと少し大げさだけど。両親に決められた相手との縁談をお断りして、自分が本当に好きになった人と結婚したの」
「本当に、好きになった人と……」
「主人はいわゆる上流階級の人間ではなく一般家庭の人で、特別優秀なわけでもない。だけど、私にとって彼という存在自体が特別に思えたの」
聞けば大学の頃に知り合ったふたつ年上の男性で、今はハウスメーカーの営業をしているらしい。