婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「両親には内緒で相手方にお断りの連絡を入れて、実家を出たわ。連れ戻されないようにすぐに彼と籍も入れて、しばらくは東京を離れて地方に住んでいたの」
「すごい……」
「彼の仕事の都合でこっちに戻ってきたのだけど、絶対に実家は頼れないから、私も産休育休を取りながら必死に働いてるってわけ。途中入園はどこも絶望的って話を聞いていたから、まんぷく保育園に入園が決まってホッとしてるわ」
なんでもないことのように言う彼女の話は、私にとって目指していた理想的な未来だ。
彩佳先輩はコーヒーカップをソーサーに置き、左手の薬指に嵌まる指輪を愛おしそうに撫でた。
親友の千花も、旦那さんの話をするときに、よくこういう仕草をする。
相手を好きでたまらないのだと伝わってきて、微笑ましいのと同時に、とても羨ましくなった。
私には、そんな愛のある結婚は一生出来ないから……。
「先輩が羨ましいです……」
自分の心情を言葉に出して、そういえば高校生の頃にも同じように彼女を羨んだことがあったと思い出す。
彩佳先輩は、怜士に好意を抱いていた女子生徒の中で、唯一私に対していじめたり嫌味を言ったりしてこない相手だった。