婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
好きな人を見つけて、さらにその人から同じだけ想いを返してもらえる。その先に結婚というゴールがある。
そんな日常にありふれている夫婦の形が、私にとっては夜空に輝く星のようにキラキラして感じて、手が届かないほどに遠い。
「確か霧崎さんは麻生くんと……」
私の顔が曇ったのがわかったのか、先輩は言葉を途切れさせた。
でも私は誰かに聞いてほしくて、目の前の先輩に向かってこれまでの経緯を話した。
婚約の話は十年前から出ていたこと。最初は政略結婚だろうと嬉しかったこと。だけど婚約が決まってから急に怜士が冷たくなり、いろんな女の子とデートしたりと浮名を流し始めたこと。
そこで先輩は申し訳なさそうに肩を竦めて苦笑したけれど、私は構わずに続けた。
怜士とは結婚したくなくて、政略結婚を断ることで両親から縁を切られても生きていけるように、学生時代は一心不乱に勉強して資格取ったり、バイトして貯金に精を出したりしていたことも話した。
「だけどうちの会社、もう十五年も前から麻生ホールディングスに資金援助を受けていたらしくて。それを盾に怜士に脅されて、もう結婚するしかないって感じで……」
暗くならないように軽く話してみたものの、溢れるのはカラッカラに乾いた笑いだけ。