婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

あれ、デートっぽさがなさすぎる?

化粧品会社に勤めている人に会うのに、いつものメイクで大丈夫かな?

そう思ったものの、時計を見るとすでに十時半を回っている。

ここから待ち合わせの場所までは約三十分ほど。

絶対に遅刻はしたくないので、そろそろ向かわなくては。

肩にかかる髪は毛先だけ緩く巻いて耳の上でひとつにまとめ、ワイヤーの入った革紐を無造作に巻き付ける。

ここ最近SNSで流行っているヘアアレンジで、手軽で簡単なのにオシャレに見えるので、休日はもっぱらこのスタイルだ。

通勤用のバッグから財布と定期を取り出して、去年奮発して買ったかご素材のサッチェルバッグにスマホとハンカチと一緒に入れた。

部屋を出て、無駄に長い廊下を歩いた先の玄関で靴を履いていると、突然目の前の扉が開き、身体が飛び上がるほど驚いた。

扉の向こうにいた怜士もまさか休日の朝に私と鉢合わせると思っていなかったのか、目を見開いている。

格好からして、二階に併設されているジムにでも行ってきたのだろう。

シンプルなトレーニングウエアから伸びる二の腕は意外にも筋肉質で、肩幅も胸板も私が見慣れていた怜士よりも逞しくなっている気がする。

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