婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
約束の時間よりも二十分ほど早く待ち合わせ場所に着いたけど、五分も待たずに待ち人が来た。
「霧崎さん、ですか?」
「は、はい。えっと、大内さん?」
声を掛けられて見上げると、長身で少し無骨な雰囲気のある男性だった。
「はい、そうです。暑い中お待たせしてすみません」
「いえ、私が早く着き過ぎてしまっただけなので。こちらこそ、今日はわざわざ来ていただいてすみません」
「いや、きっと杉野がおせっかいを焼いたんでしょう」
杉野とは、彩佳先輩の新しい名字だ。
苦笑しつつも不機嫌には見えず、ホッとした。
彩佳先輩にむりやり行くように言われて来たのだとしたら、申し訳無さすぎる。
「では、早速ですが店へ移動しましょうか」
紳士的にエスコートをしてくれる大内さんは、表情を緩めると目尻が下がり、グッと優しい印象になる。
彼は大学で学んだ知識を活かし、社内では基礎研究の分野に携わっているらしい。
直接商品を開発するというよりも、配合する有効成分などのデータをとり、化粧品の効果の実証実験をしたりする部署で、普段はスーツではなく白衣を着て仕事をしているそうだ。