婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
いつからこちらを見られていたのだろう。
咄嗟に目を逸らした私と違い、いまだに怜士はこちらを見つめている気がする。
居心地が悪い。もっといえば、かなり不快だ。
高校生の頃から、私は怜士のこの視線が苦手だった。
隣に綺麗な女の子をはべらせながら、私に向けられる視線。
それはまるで『お前なんて相手にしない』と見せつけられているようで、でもどこか、もっと違う意味合いがありそうで。
怜士の不躾な視線に無視を決め込み、両親達が交わしている会話に意識を集中する。
「怜士くんは本社の事業開発部とは、ずいぶん優秀ですな。入社後は奥様の旧姓を名乗られているとか」
「ええ、私の息子だからと色眼鏡で見られるのが嫌だと本人が言いましてな。二十五歳での後継者指名までの間は伏せて働いておるんです。頑固なもんですよ」
父親同士が仕事の話も交え穏やかに話しているかと思いきや、怜士のお母さんがいよいよ核心に迫った話を切り出した。
「会社の後継者指名と一緒に婚約発表もするのでしょう? 早くパーティーの会場をおさえないと」
その言葉に、私はドキリとしながら枇杷ゼリーを飲み込んだ。