婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
穏やかで優しい口調の大内さんとの食事は、初対面だというのに気まずさを感じなかった。
予約してくれていたイタリアンレストランで美味しいパスタを堪能しながら、互いのことを話したり、共通の知人である彩佳先輩の話など、話題が尽きず会話が途絶えてしまうこともない。
化粧品研究の話をする彼は雄弁で、どれだけ自分の仕事に誇りをもっているのかが垣間見えるのも好印象だ。
しかしその話を聞いていると、勉強を好きになるように幼児教育に力を入れようと語っていた中学生の怜士の顔が浮かび、芋づる式に今朝の不機嫌な顔まで思い出してしまった。
追い払うように頭をふるふる振っていると、大内さんが不思議そうにこちらを見たので、なんでもないと笑っておいた。
彼はとても素敵な人だと思う。
彩佳先輩と仲が良いようだし、きっと彼も優秀な研究員なんだろうと、話を聞いて感じられた。
だけど、それが恋愛に結びつくだろうかと考えると、やはり自分の中ですでに答えは出ているような気がする。
食事を終え、店を出てからご馳走になったお礼を伝えて、形式的に連絡先を交換して別れた。
新たに連絡先が加わったスマホに目をやると、時刻はまだ午後二時過ぎ。
せっかくの休日にこのまま家に帰るのは惜しい気もしたが、なんだか気疲れしてしまって、結局帰宅することを選んだ。