婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
鍵を開けて玄関に入ると、怜士の革靴も休日用のスニーカーもあり、彼が家にいるらしいとわかった。
それならやはり外で過ごそうかと踵を返そうとしたところに、リビングに続く扉から怜士が出迎えに来た。
今朝彼を振り切って家を出てから、まだ四時間ほどしか経っていない。
デートだと息巻いて家を出ていったわりに、もう帰ってきたと笑われるのかと唇を噛み締め視線を向けると、どこかホッとしたような安堵の表情をしている怜士と目が合った。
「おかえり」
この言葉に返すセリフはひとつしかないけれど、すぐに口に出せるほど、私はここでの生活を受け入れたわけでもない。
それでも無視をするのも憚られ、「……ただいま」と小さく返事をしてから自室へ向かおうと足を進めた。
「陽菜。そろそろちゃんと話がしたい」
「私には話すことなんてない」
「……頼む」
真剣な眼差しを向けられて調子が狂う。
いつだってこちらを睨むような不機嫌さを隠さなかった怜士が、私に懇願するような素振りを見せるなんて。