婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
それと同時に、激しい混乱と憤りで、私の身体はカタカタと小刻みに震える。
体中の血液が、一気に頭にのぼっていったような感覚だった。
「バカにしないで!」
ぎゅっと目を瞑り、声を床に叩きつけるように叫んだ。
一緒に住み始めて三週間。
私が頑なに怜士のことを避け続けているのが癇に障ったのか、自分に落ちない女がいることにプライドが傷ついたのか知らないけれど、まさか『ずっと好きだった』という見え見えの嘘で私がほだされるとでも思ったのだろうか。
今はこんな歪な関係でも、私の初恋が怜士だということは紛うことなき事実。
それなのに、子供の頃の楽しかった思い出まで汚されてしまった気分だった。
「そんな嘘、よく平気な顔で……っ」
悔しくて、泣きたくないのに涙が滲む。
両親に売られるように政略結婚を受け入れざるをえない状況でさえ、この世の終わりのように感じられていたのに、その上どうしてこんなふうにバカにされなくてはいけないのか。
瞳に涙と軽蔑の色を浮かべて怜士を睨むと、慌てたように彼が弁解する。