婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

そこでふと思う。

父は保育士のことを『遊びみたいな仕事』と見下していた。

もし父が私の『結婚するまでは保育士として働きたい』という言葉を、『結婚するまでは自由に遊びたい』と歪曲するような伝え方をしていたとしたら。

あり得ない話ではない。

そして、その“遊びたい”という表現を、怜士は勝手に“男遊び”に変換してしまっていたのだ。

「陽菜も俺と同じ気持ちだって勘違いしてたのが恥ずかしくて、自暴自棄だったんだ。毎年陽菜と行ってた夏祭りに強引に誘ってくるやつがいて、どうせ今年は陽菜と行く気にはなれないからって適当に頷いたら、いつの間にかそいつが彼女ってことになってた」

いつの間にかって……。

白い目で見やると、怜士は自嘲気味に笑い、それでも話すことをやめなかった。

「それ以来、誘われては出掛けてっていうのを繰り返した。陽菜が他の男と遊ぶ気なら俺だってって思ってた節もある。だけど、結局誰といたって楽しくなんてなかった。馬鹿だったって、今になって思う」

そう言いながら怜士が私の腕を引き、ぼすんと硬いなにかに顔がぶつかる。

「わぶっ……!」

なにか起こったのか一瞬わからなかったけど、嗅ぎ慣れないスパイシーな香水を近くに感じ、ようやく抱き締められているのだと理解した。

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