婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
必死に身じろぎし、離してもらおうと腕を突っ張ろうとしたところで、怜士の懺悔する声が耳元で響いた。
「この前は、本当に悪かった」
艶のある低く甘い声がかすかに震えている。
怜士の言う『この前』とは、ホテルでのことだと察しがついた。
辛そうに絞り出しているかのような声音には、ありありと悔恨が滲んでいる。
あのときは怖くて悔しくて、なにより悲しかった。
だから簡単に許す気にはなれないけど、謝罪は受け取ろうと、小さくこくんと頷いておいた。
「その、聞いてもいいか?」
彼が私の父の言うことを真に受けて、私が『結婚までは遊びたい』と言っていたと思っているのなら、先日のホテルでの一件は腑に落ちないことだらけだろう。
「……話すから、離れて」
今更な気もするけれど、この歳になるまで遊び歩いていただなんて不名誉な誤解をされたままなのも嫌だ。
だから話そうと思っているのに、一向に身体に回った腕の拘束から抜け出せない。