婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「離れ難い。せっかく、陽菜が俺の腕の中にいるのに」
さらにぎゅっと力が込められて、動揺した私はバシバシとその腕を叩く。
「バッ、バカなこと言ってないで離して! じゃないと話もできない!」
ようやく腕の力が緩められ解放されたものの、私は話す前から息も絶え絶えになっている。
顔が熱くなっているのを自覚して、一旦飲み物を取りにキッチンへ逃げた。
『離れ難い』なんて甘い言葉を耳元で囁かれ、どんな顔をしていたらいいのかわからない。
勉強と仕事に明け暮れ、大人の男性に対する免疫は皆無だといってもいい。
自分を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
戸棚からグラスを出しながら、さすがにひとり分だけ持っていくのはいかがなものかと思い、怜士の分のお茶も一緒に入れてソファに戻った。
怜士の座る前にグラスを置くと、物凄く驚いた顔をして私を見てくる。
「なによ。さすがに自分の分だけ持ってくるなんてしないよ」
「あ、いや、そうじゃなくて。覚えてたんだなって。俺が氷いらないって」
嬉しそうに顔を綻ばせた怜士に指摘されて、自分の持ってきたふたつのグラスを見る。