婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「私が怜士との結婚を言い渡されたのは、中学を卒業する頃だった。大学を卒業したら結婚するまで家事の腕を磨くか麻生の家業を手伝うか、きっとその二択になるって思った。でも……」
「でも?」
この先をどうやって説明しようかと考える。
怜士が初恋なことや、夢を現実にする怜士の手伝いがしたくて保育士を目指したことなんて話したところで今更だ。
思考を巡らせ、事実だけを伝えることにした。
「夢だった保育士を諦めたくなかった。だから父に頼んだの。結婚を了承する代わりに、二十五歳までは自由に働かせてほしいって」
簡潔な私の話を聞いていた怜士の眉間に、見たことないような深い皺が刻まれていく。
「自由に……働く……?」
きっと自分の記憶と照らし合わせているんだろう。
口数が少なく、一見するとなにを考えているのかわからない怜士にしては珍しく、混乱している様子が手にとるようにわかった。
「いや、親父は陽菜の父親が『結婚までは遊びたい』って話してるって。だから、親父も最初はこの結婚話に難色を示してたんだ」
後半のはじめて聞く話に、『それならそのまま破断にしてくれればよかったのに』と思わないではないけど、それこそ今更だ。