婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
『怜士くんのお父さんって、大きい会社の社長なんでしょ? 凄いね!』
『麻生くんもいつか社長になるんでしょ? 仲良くしておきなさいってママが言ってた!』
子供の頃から、いずれ会社を継ぐのだろうと理解していたし、そのための努力は怠ってはいなかった。
だけど、強制されたくないし、他人にどうこう言われたくない。特別扱いもされたくない。
麻生の御曹司として扱われることで、自分の価値が父の会社を継ぐ以外にはないと言われている気がした。
そう思っても不機嫌に顔を顰めるしかできなかった口下手な俺に代わって、陽菜が言った。
『凄いのは怜士のお父さんとおじいちゃんで、怜士は別に凄くないよ。だってただの小学生だもん』
当時十歳にもなっていなかった女の子のセリフとしては、生意気に聞こえるかもしれない。
だけど、俺は陽菜のこの発言に救われた。彼女も霧崎商事の社長令嬢という肩書きを煩わしく思っていたのかもしれない。
いつしか陽菜に凄いと認められたいという思いが芽生え、徐々に彼女を意識するようになっていった。