男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副団長が過保護です~
『――ああ、そうだな。お前のいるところが、俺の帰る場所だ』

 ノエルは自分に言い聞かせるように呟くと、ラビの肩に顔をすり寄せ、尻尾で彼女の背を抱いた。

 セドリック達が周りに集まっても、ラビは泣き止まなかった。普段なら人目がある場所では気丈に振舞って泣き止んでくれるはずの彼女は、ノエルを抱きしめたまま、大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼし続けていた。

 ノエルが溜息混じりに、『まいったな』と顔を歪めた。

『おいおい、これぐらいの怪我で死にはしないから安心しろ。だからほら、泣きやめって』
「う~……」

 ラビはノエルの胸元に顔を埋めると、泣き声を堪えて呻いた。

『――そういうとこ、ガキの頃から全然成長しねぇなぁ』

 ノエルは、苦笑しつつ顔を上げた。そこまで近づいてきた騎士団の男達が、自分を恐る恐る眺めている事に気付いて、怪訝な表情を浮かべる。

『別に取って食うつもりはねぇぞ。俺は美食家なんだよ』

 そう言葉を発した時、代表者としてノエルに歩み寄ろうとしていたグリセンが、安堵と緊張とストレスによる胃痛で、とうとう意識を手放した。

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 騒動が鎮静化を迎えてすぐ、騎士団により町の住民たちに、縄張り意識の強い氷狼の巣を荒らした人間がおり、逆鱗に触れた事が今回の騒動の原因だったと伝えられた。

 凶暴化した害獣を、騎士団と獣師、獣師が従える獣が協力して抑え込んだ事が知らされ、一人の死亡者も出さなかった奇跡的な働き振りを、町の住人たちは褒め称えた。

 警備棟の屋上と一階の損傷は大きかったが、奇跡的に全員が軽傷を負った程度で済んでいた。敷地内が荒れてしまった状況については、手を叩いて喜べないものがあったが、全員が包帯等を巻いた状態で、各自仕事を分担して処理作業にあたった。

 大量に【月の石】を使用した副作用で、ノエルの姿は実体化が続いていた。騎士団は、喋る黒大狼は害がないと正しく認識し、その存在感に早々に慣れ始めると、物珍しそうに見たり話しかけたりした。
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