男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副団長が過保護です~
 少女にしては珍しく短髪で、皺の入った大きめのシャツを、グレーの作業ズボンにしまっている。

 それをベルトでしっかり固定する出で立ちは、まるで少年である。

 通い出して数年になる郵便配達の青年が、少年にしか見えない、その小さな家の主人の姿に気付いて、通りすがり帽子を軽く取って挨拶をした。少女ラビィも、泥だらけの手を軽く上げて応えた。

 日頃から男性の恰好をしているせいか、中世的な顔立ちのせいか、ラビィは実年齢である十七歳には見えない。金髪金目で、元々の色素が薄いため、雪も降らないホノワ村では、珍しく真っ白な肌をしていた。

 美人だった母親譲りの顔立ちは、手入れをすれば美少女寄りにはなりそうなのだが、本人が容姿に無頓着のため、その姿は、さしずめ十五歳のやんちゃな少年であった。

 ラビィ、――自称ラビは、薬草を詰め込んだ籠を持ったまま、郵便配達の青年を見送った。

「最近は、まぁ慣れたもんだよなぁ」

 彼女は、中世的な声色で、一人感心したようにそう呟いた。

 すると、ラビの傍で『ふん』と答える低い声があった。

『あの驚きっぷりが良かったのに残念だ。最近は怖がらねぇし、見飽きちまった』

 ラビの背後に回り込んだ大きな黒い狼が、長い優雅な毛を風に揺らしながら、青年の操る馬車を金緑の瞳で見送った。彼は頭の位置にある華奢なラビの腕に鼻を寄せ、毛並みの良い長い尾で彼女の肩を撫でる。

 人語を話すその獣は、一般的に知られている大型級の狼を、更に一回り大きくした姿をしていた。その黒大狼は、ラビと共に育った『秘密の友達』であり、家族でもある。
< 4 / 203 >

この作品をシェア

pagetop