あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう

「前に着ていた…ほら、入学式の。あの服でいいじゃないか」

アジフライをつまみにビールを飲んでいた父がそう言うと、母は軽く父の肩を叩いて笑った。

「いやだわ、紗良のよ」
「えっ?私?」
「ああ、そうか」

驚きに目を丸くした私を見て、父が頷く。

「結婚式に着ていくようなのはないか」
「私は着物にしたかったけど、そうね、あのスーツでいいかしら。母さんの車椅子を押さなきゃいけないし」
「踵の高い靴では危ないだろう。俺が押すよ」
「あら、そう?」

それなら、着物でもいいかしら、と弾んだ声でキッチンへ行こうとした母を呼び止めて、私は言った。

「誰か、結婚するの?」
「そうよ」
「私も行くの?」
「それはそうよ」
「誰の結婚式?」
「誰って……姉さんよ。あなたの伯母さん」

くすくす笑って母が言ったけれど。

当時の私には、その言葉の意味がすぐにはわからなかった。
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