あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう

「いや、めでたい事だけどさ。加奈子さんは結婚なんて考えていないとずっと言っていたから……だから、紗良もおかしいと思ったんだろう。な、紗良」

その通りだ。

私が覚えている限りの昔から、誰に何と言われても、叔母はそんな感じのことを言っていた。

うん、と私が父の言うことに頷くと、母は私達を見比べて大きなため息をついた。

「あのね、紗良。結婚ていうのはね、いくつになったらする、と決まっているわけじゃないのよ。早い人もいるし、遅い人もいるし、ずっとしない人もいるの。学校とは違うのよ」
「紗良はまだ子供だから、そういうのはまだ早いかもしれないな」
「あら、紗良だって、あと10年もしたら結婚するかもしれませんよ」
「おいおい」

焦ったように父がグラスを置き、大きく揺れた中身がテーブルに飛び跳ねた。

「ちょっと、お父さん」

立ち止まっていた母がパタパタとキッチンに去っていき、私は母の言ったことを考えた。

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