あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう

そんな悲しい時間の中で、私は初めて、あの人を……あの人に対する気持ちを忘れていたように思う。

思い出してしまったのは、数日後のお葬式……

お通夜だったか、告別式だったかは覚えていないけれど、黒い喪服を着た、あの人を見た時のことだった。

ラフな服装しか見たことがなかったけれど、長身でどちらかといえばやせ型のあの人は、スーツがよく似合っていた。

喪服が似合うだなんて、誉め言葉にはならないかもしれないけれど。

いつになくきちんとしたその姿は、私の目に新鮮に映り……

能面のような表情もあいまって、その立ち姿は別人のようだった。

けれど、やっぱりそれは、間違いなくあの人に違いなくて。



…………抱きしめたい。


悲しみに立ち尽くす背中を見つめながら、私はそう思った。

< 30 / 72 >

この作品をシェア

pagetop