あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう
そんな悲しい時間の中で、私は初めて、あの人を……あの人に対する気持ちを忘れていたように思う。
思い出してしまったのは、数日後のお葬式……
お通夜だったか、告別式だったかは覚えていないけれど、黒い喪服を着た、あの人を見た時のことだった。
ラフな服装しか見たことがなかったけれど、長身でどちらかといえばやせ型のあの人は、スーツがよく似合っていた。
喪服が似合うだなんて、誉め言葉にはならないかもしれないけれど。
いつになくきちんとしたその姿は、私の目に新鮮に映り……
能面のような表情もあいまって、その立ち姿は別人のようだった。
けれど、やっぱりそれは、間違いなくあの人に違いなくて。
…………抱きしめたい。
悲しみに立ち尽くす背中を見つめながら、私はそう思った。