あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう
・抱擁の後で
「はい、どうぞ」
目の前に置かれたお皿に乗った半円のスイカを見て、私は非難めいた半眼を雄太さんに向けた。
「……スプーン、ないんですか?」
「え?」
「種とるのに……このままガブっていくのは豪快すぎるでしょ」
「……そうなんだ」
知らなかった、とつぶやいて、キッチンへ去っていく雄太さんを見て、私は大きなため息をもらす。
ついさっきフラれたばかりだというのに、一緒にスイカ食べるとか……和やかすぎるでしょ、私。
あ、いや、言い出したのは私じゃなかった。
目の前の、この人。
私をフッた張本人ですよ。
いやでも、スイカ食べよ?って言われて、頷いちゃった私も私なんだけど。
10年以上にわたる片思いの初恋が破れ、号泣でもするかと思いきや、意外にも、私の目から涙は一滴もこぼれなかった。
むしろ、今にも泣きそうに目を潤ませてたのは雄太さんの方。