あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう
私が声をかけると立ち上がり、震えながら泣き出した母とは違い、あの人は病院の固いベンチに座り、ただ黙って何もない空中の一点を見つめていた。
母の泣き声が響く病院の廊下。
同じ場所にいるのに、まるで何も聞こえないみたいに、一言も発さずに、ひっそりと、微動だにせず。
その横顔は何の表情のないお面のような、のっぺりと表情が抜け落ちた、まるで別人のような顔だった。
私は、そんなあの人に声をかけることもできず、少し離れたところに座り、母の背を撫でることしかできなかった。
いつも伯母の横で穏やかに笑っていたあの人の、そんな顔を見たのは、その時が初めてで。
あの人を見て、怖いと思ったのも、それが初めてのことだった。
そして、その状態は伯母のお葬式が終わり、その後の法事の時も、変わることがなく。
あの人が、私を見て、笑いかけることも、もうなかった。