そして僕はまた、君に出会える時を待つ
・人生初の非常事態
あの頃の僕は、ずっと君を待っていた。
ふと入ったカフェバーで、偶然に出会っただけの、名も知らない君を。
自分とあまり関係のない他者、つまりは”人間”という生き物に、普段はそれほど興味を持たないはずの僕が、なぜあの時、君に惹かれたのか……
何度考えてみても答えの出ないこの現象が、”恋”というものなんだろうな、と。
経験の少ない僕でも、気づくのにそう時間はかからなかった。
なにせ、子供の頃から、友達と遊ぶよりも、1人で虫ばかり見ていることの方が好きだった、この僕が。
気がつけば、朝起きた時から、仕事の合間、仕事終わりはもちろん、ぼんやりとテレビを見ているだけの夜の時間にさえ、彼女のことを考えていたのだから。
思春期の頃には、淡い恋心のような気持ちを抱いたことはあった気がするけれど。
僕がこれほど他人のことを考えたのは、25年の人生で初めてのことだった。