そして僕はまた、君に出会える時を待つ

「よかった」

あとは紅茶かコーヒーでも、とポットのスイッチを入れ、マグカップを出そうとしたところで、背中の加奈子さんがつぶやいた。

「本当はね、1人で食べようと思ってたの」
「珍しいですね。こういうのは、食べないと思ってたけど」
「昨日、別れるつもりだったから……それで」
「別れると、パンケーキなんですか?」
「昔から、悲しいことがあると、母が作ってくれてたから」
「いいお母さんなんですね」
「……そうかな……うん、そうかも」

加奈子さんの腕の力がゆるんだので、僕は流しに尻を乗せるように体の向きを変えて、正面から彼女を抱きしめた。

「それじゃ、今日からは嬉しい時も、パンケーキを食べることにしませんか?」
「嬉しい時も?」
「そう、嬉しい時も、悲しい時も……ふたりで」

胸元から僕を見上げた加奈子さんの額にキスして、寝起きで乱れた髪を撫でつける。

「そうすれば、つらい時も、まあいっか、みたいな気持ちになると思うんですよ」
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