きみに ひとめぼれなおし
最終下校時刻のチャイムが鳴って、私たちは慌てて帰り支度をする。
すでに持ち物を片付け終えて、机に寄りかかってスマホを見ている由美がため息まじりに言った。

「あーあ、時間ってあっという間に過ぎるよね。この間春休み終わって新学期始まったと思ったら、もうゴールデンウィークだよ」
「そうだね。もう来週だもんね、ゴールデンウィーク」
「ゴールデンウィークが明けたら梅雨だよ」

由美は物憂げな顔をして、緩く巻いた毛先を指先に巻き付けて弄ぶ。

由美ご自慢の少し明るめのふんわりヘアは、梅雨になると乱れる。
艶やか髪は、あらぬ方向へ飛び跳ね、はた目から見ても、毛量が一気に増えたように感じる。
学校に行きたくないほど悩んでいることを、私は知っている。

「梅雨が明けたら、もう夏休みじゃん。一学期って早すぎ」
「いろいろすっ飛ばしすぎだよ」

絶望的な声を上げながら天井を仰ぎ見る由美の姿に、私は苦笑いを返す。
由美はせかっちだ。
由美の時間の感覚はいつも私の二歩も三歩も先を行っている。
私が遅いのだろうか。
いや、そんなことないはず。

私は窓の施錠確認をするふりをして、最後にもう一度グラウンドの端を見た。
そこにはまだ、サッカー部がいる。
最終下校時刻が過ぎようとしているのに、まだ地面に腰を下ろしてしゃべっている。
そこから少し離れたところに、勝見君を見つけた。
勝見君もまだ体操服のままだ。
そしていつも通り、一人でリフティングをしている。
蹴り上げられたボールは緩やかに跳ね上がり、すとんと静かに戻ってくる。
それを勝見君は、確実に受け取る。
そして再び、夕方の空に跳ね返す。
その時間は、見ているだけで心地良い。

私はこうしている時間が好きだ。
この場所で、好きな人を見つめる時間が。
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