きみに ひとめぼれなおし

部活中、坂井さんが教室からずっと俺のことを見ていることは知っていた。
それは付き合う前から。
広瀬とパス練習をしている時も、グラウンドを駆けている時も、その隅でリフティングをしている時も。
坂井さんが俺を見ていてくれることが嬉しかった。
だけど気づかないふりをしていた。
それは、不意に目が合う瞬間が、好きだからだ。
意地悪しているつもりはないんだけど、不意打ちのように目を合わせた時の、あの恥ずかしそうな表情が、照れた笑顔が、驚いた仕草が、焦る様子が、かわいくて仕方なかった。

俺だけに見せてくれるその仕草。
俺だけに見せてくれる表情。
俺だけが知っている、坂井さん。

もっと見たい。
もっと見せてほしい。
そんな仕草も表情も。
その瞳を、俺にだけ向けてほしい。

坂井さんが見ていると思うだけで、頑張れた。
コートを駆ける足に力がこもった。
跳ねるボールは、俺の心そのものだった。
ふと目が合えば、何度も恋に落ちる気分だった。
何度も、あの一目ぼれをした感覚を味わった。
それが嬉しくて、幸せで、体中から熱い気持ちがあふれ出して、そしていつも無意識のうちに手が空に伸びる。
まるで、坂井さんを求めるように。

坂井さんはそんな俺に、小さく手を振り返す。
空の中で、手のひらが重なる感覚に胸が熱くなる。
そしてその時に見せる坂井さんのはにかんだ笑顔に、俺の心は炭酸のようにパチパチと弾ける。

__こっち、見て。

心の中で、いつも叫んでた。
もっと見せたい。
もっと見てほしい。
こっち、見て。

……って。
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