きみに ひとめぼれなおし
勝見君はカッターシャツに黒のズボンという普段の学校生活と変わらない恰好なのに、コーヒーを連想させるブラウンのカフェエプロンを巻いて、木製のトレーを抱えてすたすたと歩く出で立ちは、ぐっと大人びて見えた。
腕まくりした長袖から伸びる運動部らしい筋張った腕は、場所が変わるだけで働く大人のシンボルに見えた。
屈託のない笑顔は、スマートで落ち着いて見えた。
学校以外で見せる初めての表情に、ドキドキした。
お店にもすっかりなじんでいて、お客さんとも親し気で。

一方の私は完全にアウェーだった。
幼い子どもの私がここにいるのは、場違いな気がした。
周りはラグビーの試合で盛り上がっているのに、私の存在がその楽しい空気をぶち壊してしまっている申し訳なさで、サッカーモチーフのかわいらしい料理もそこそこに、すぐに店を出た。

ちょっと苦い思い出を振り払い、話に戻る。

「もう一つバイトを掛け持ちしてて、そこは語学カフェ」
「語学カフェ?」
「そうそう。英会話教室より、もっとゆるーい感じ。外国人の先生と日本人の生徒がグループ作って、お茶飲みながら外国語でお話するっていう。ゆるーいって言っても、志高い人ばっかだからさ。ただ彼氏の仕事ぶり見に来た私とは熱量が違うわけよ。授業の英語だってちんぷんかんぷんなのに、知り合ったばかりの人とお茶飲んで英語で熱く語り合うなんてさ、私にできるわけないじゃん。そここそ、文字通り場違いだったな。話しかけられても、笑ってるだけで」

でも、勝見君はすごかった。
英語はもちろん中国語やドイツ語、その他の言語も、何の気負いもせず、話しかけられてもスマートに対応していてかっこよかった。
そんな勝見君の横で、彼女面できるわけもない。

今すぐそこから飛び出したい気持ちで、結局「シーユー」なんてカタカナ英語をへらへらとした笑顔で放って早々に店を飛び出した。
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