きみに ひとめぼれなおし
どちらの思い出も、今思い出してもかなり胸にしみる。
惨めで情けない私を、勝見君はどんな目で見てたんだろう。
顔なんて見られなかったから、思い出すこともできない。
何て言って店を飛び出したかも思い出せない。
思い出せば、また気持ちだけが沈んでいくだけだろう。

そんな私の様子を見ていた由美は話題を変える。

「夏休みは、一緒にどっか行かないの? あかりも勝見君も、息抜きは必要でしょ?」
「うーん……、そりゃあ一緒にどこか行けたらいいけど、こんな成績の私がどこか行こうとか、誘えないよ。受験生なのに浮かれすぎでしょ。しかも目指すのは勝見君と同じ大学だよ。超難関だよ。余裕の勝見君と違って、私は全然余裕ない。もっと頑張らないと、勝見君に、追いつかない。勝見君は、バイトも勉強も頑張ってるのに」

頑張る勝見君を語るのは好きなはずだった。

「勝見君はすごいんだよ」、「自慢の彼氏だよ」。

もちろんそんなこと人前で言ったり、のろけたりなんてしないけど、心の中ではそう思っていた。
勝見君が彼氏であることに、密かに優越感を覚えていた。
だけど今は、そのすごさを口にするたびに、自分の惨めさを明らかにしていくようで嫌になる。

一学期の後半、教室から職員室前に勉強場所を移動したのだって、質問箇所が多いからって言うのは半分本当で、半分はウソだった。
本当は、窓の外を眺めるのが苦痛だった。
受験生の空気感を微塵も感じさせずにグラウンドを無邪気に駆け回る勝見君を見ているのが嫌だった。
私の気も知らないで、のん気に手を振る勝見君の姿が、徐々に疎ましく思うようになっていた。
私はこんなに頑張ってるのに。
そんな私に気づいてくれない勝見君に苛立ちを覚えた。
気づいてほしいと言いつつ、こんな自分勝手で見苦しい気持ちを顕わにする私を見てほしくない気持ちもあった。

もう何もかも、めんどくさい。
受験も、勉強も、恋も、私も。
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