きみに ひとめぼれなおし
「勝見君からは、何かないの? たまには一緒にどこか行こうとか」
「別に、何も」
「何も?」

そう、何もない。
そもそも私たちは、どこかに出かけるということがほとんどない。
勝見君は学校がある日の放課後は部活の後バイトに行くし、休みの日もたいてい部活かバイトをしている。
連絡だって頻繁に取り合ったりしない。
私がメッセージを送っても、勝見君から連絡が来るのは、夜中か早朝。
私がメッセージを送った何時間もあと。
たいてい1ターンで終わる。
3ターンできれば上出来。
さっきまでやり取りしていたのに、途中で終わってしまうことなんてしょっちゅうだ。
それは付き合い始めたときからそうだった。
でも「疲れてるんだなあ」「寝ちゃったのかな」「忙しいのかなあ」と私にしては大きな心で受け止めてきた。
「勝見君が好き」、「勝見君はすごい」、それだけで、懐は大きく広がった。

だけど、今は違う。
私の心はどんどん、どんどん狭くなる。
焦りや不安でいっぱいになる。
私はただ、勝見君に近づきたいだけなのに。
そばにいたいだけなのに。
勝見君みたいに、大人になりたいのに。
自信をもって隣を歩ける彼女になりたいのに。
私は今、自分でもよくわからないもので押しつぶされそうになっている。
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